
2025年4月時点のトランプ政権による新関税政策の影響を踏まえ、日本在住者がアンティークコイン(発行から100年以上経過したコインと定義)を国内外で取引する場合に生じうるメリットとデメリットについて、仮説的に考察する。
【メリット】
- 米国バイヤーの競争力低下による価格優位
- 米国在住のコレクターが海外オークションからアンティークコインを輸入する際、最低でも10%の関税負担が発生し、場合によってはそれ以上のコストが加わる。
- この関税分を考慮して、米国人は落札上限額を引き下げざるを得ないため、結果として国際オークションにおける入札競争が緩和される。
- 日本在住者は今のところ関税の影響を受けておらず、海外オークションで相対的に有利な立場に立てる可能性が高い。
- 欧州市場や中立地域(香港・シンガポール)での仕入れ機会増加
- 欧州や香港では、米国との高関税を避けて、米国外ディーラーが地元市場での販売に注力しはじめている。
- 日本在住者がこれらの市場で仕入れる場合、価格が下落・調整されている商品にアクセスしやすくなる。
- 特に米国からの需要が減った高額希少品については、「米国抜きの競争環境」で落札できるチャンスが増える。
- 日本国内市場の相対的安定
- 日本はトランプ政権から一時的に24%の追加関税対象とされているが、2025年7月初頭までは関税適用が猶予されている。
- その間、日本国内でのコイン取引には混乱や規制強化が直接及んでおらず、取引の継続性・予見性が保たれている。
- 関税による影響を回避した**「避難市場」**として、日本国内ディーラーへの出品や仕入れが増える可能性がある。
【デメリット】
- 米国からの輸入時に将来的な関税リスクが存在
- 仮に日本が7月以降、米国の関税政策の本格対象国に指定された場合、日本の業者・個人が米国からコインを輸入する際、最大24%の追加関税が課されるリスクがある。
- これにより、米国オークションでの仕入れコストが大幅に上昇し、取引機会が著しく制限される可能性がある。
- 特に、米国発のNGC・PCGS認定コインなどが日本市場で高い人気を誇る状況下で、この流通が滞ることの影響は大きい。
- 日米間の再販売(転売)モデルの崩壊
- これまで日本在住者が米国市場で購入したコインを、米国人顧客に販売・再輸出していたモデルがあるとすれば、その関税負担によりビジネスモデルが破綻するおそれがある。
- 特に海外オークションで落札→米国バイヤーに再販という商流において、最終的な米国側輸入時に関税がかかるため、利益幅が圧迫される。
- 流通不安による価格の不透明化
- 米国市場における需給の変動は、国際市場全体の価格設定に影響を与える。
- アンティークコインの価格が「一物一価」でなくなり、市場ごとの価格差(裁定機会)と価格不安定性が高まる可能性がある。
- 日本在住者が購入する際に、「この価格は高いのか、安いのか」が判断しづらくなるという取引判断リスクが拡大する。
【補足】今後の対応戦略(日本在住者向け)
分類 | 推奨アクション | 補足 |
① 仕入先の多様化 | 欧州、香港、シンガポール等の非米市場を重視 | 米国に頼らない在庫確保体制を整える |
② 情報収集の強化 | 米国税関、EU通関、業界団体から最新通達を随時確認 | 特に7月初頭の発表に注意 |
③ 国内販売チャネルの整備 | 米国との取引リスクに備え、国内コレクター層との信頼関係を強化 | 販売先を多元化し外的リスクを抑制 |
④ 中立地での取引推進 | 香港・ドバイ・スイスなどでのオークション参加を検討 | 関税圏外からの輸入で税負担を抑制可能 |
以下に、先の考察に基づき、日本在住者向けアンティークコイン取引判断ガイドラインを示す。
🇯🇵 日本在住者向け
【取引判断ガイドライン(2025年版)】
区分 | 判断軸 | ガイドライン | 理由と背景 |
① 海外オークションへの参加 | 積極参加を推奨(特に欧州・香港) | 米国勢の競争力低下により入札優位性が高まっている。 | 米国関税により、国際オークションでの米国人参加が減少。 |
② 米国オークションへの委託出品 | 慎重姿勢が望ましい | 出品後に落札されず返送される際に関税が発生する恐れがある。 | 現在の税関ルールでは製造国ベースで課税される。 |
③ 米国市場からの輸入購入 | 7月まで様子見、その後はリスク分散 | 7月以降、日本も関税対象になる可能性があるため。 | 米国の対日関税(24%)が猶予されているが延長は未確定。 |
④ 国内市場の活用 | 強化推奨 | 安定した取引環境が確保されており、関税リスクが皆無。 | 外部要因に左右されにくい需給構造を活かす。 |
⑤ 価格評価基準 | 市場別価格の分離を想定 | 今後、国別に価格差が発生することを前提に動くべきである。 | 米国市場と欧州市場の乖離が拡大する兆候が見られる。 |
⑥ 在庫・保有戦略 | 高額品は中長期保有または非米市場で売却 | 国際取引が不安定なため、短期転売はリスクが高い。 | 保税取引やオフショア販売も一案。 |
総括
日本在住者にとって、米国バイヤーの競争力低下は短期的には有利な追い風となりうる。とりわけ海外オークションにおける入札競争の緩和と、欧州・香港市場での価格調整は仕入れにとって好機となる。一方で、将来的に日本が関税対象とされた場合、取引コスト上昇や流通不安定化といった深刻なデメリットが顕在化する懸念がある。
したがって、日本在住のコレクター・ディーラーは「短期的メリットを最大限に享受しつつ、中長期的リスクに備える多角的戦略」が求められる。今後の政策動向、特に2025年7月の米政府最終判断は、その成否を大きく左右する分岐点となるだろう。